2015年5月30日土曜日

『死者の書』感想

『死者の書』
ジョナサン・キャロル著/浅羽莢子訳
創元推理文庫 初版1988年7月15日

 あらすじ・・・高校教師トーマス・アビイは、休暇を利用して天才作家マーシャル・フランスの伝記を書こうと、フランスが愛した町ゲイレンを訪れた。そこは一見、のどかな田舎町だったが、何か、何処か、おかしかった。少年がトラックに轢かれると、ドライバーは「こんなはずねえんだ。わかっちゃいたが」と言い、老婦人も「あんたじゃないはずなのに!」と言った。さらには「あの男の子、はねられる前は笑ってました?」と言った。この町はフランスに創られた町。住人たちは、トーマスにある望みを持っていた。

 この本を読んだスティーヴン・キングが思わずファンレターを書いた、 と言うエピソードがあります。確かにこの作品は凄い! 純粋な意味でのホラーではないのですが、生半可なホラー小説よりよっぽど怖い。
 序盤は展開もだるく、何度か読むのを止めようかと思いましたが、少年がトラックに轢かれたあたりから、徐々に「この町はおかしい」と思うようになり、俄然面白くなってきました。ストーリーはその後、町の秘密、住人の秘密、フランスの秘密、トーマスの秘密、住人たちの思惑などが明らかになり、ラストへと突き進みます。そして読者の後頭部をぶん殴るような衝撃の展開! ……主人公に感情移入して読んでいた私は、トーマスと同じく読んでいた本を投げ捨てて、逃げ出したい気持ちになりました。ラストもまた、不気味です。

 作者のジョナサン・キャロルは、これが処女作だそうです。信じられん……。その後も長編短編問わず、発表し続けている現役の作家です。長編第二作「我らが影の声」は、本作より怖いとの噂を聞き、未だに読む勇気が出ません。それぐらい、本作には衝撃を受けました。

 キングは「死の舞踏」(福武文庫)において、ホラー小説を三つに分類しました。その最上のものは<戦慄>(テラー)、その下に<恐怖>(ホラー)、最下層に<不快感>(リヴァルジョン)があると。本作「死者の書」は、この中の<戦慄>に分類されるべき作品だと思います。

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