2015年6月6日土曜日

『証言』感想

『証言』
エリック・フランク・ラッセル著/酒井昭伸訳
河出文庫「20世紀SF 2 1950年代 初めの終わり」所収 初版2000年12月4日

 あらすじ・・・世界中が注目する裁判が始まった。プロキオン星系からやって来た地球外生命体「メイス」に対する裁判だ。メイスは地球への亡命を求めていたが、地球へ来た時の状況や行き違いと、その棘で覆われた見るからに危険そうな容姿のせいで、裁判で有罪になれば極刑か、地球外へ追放されることになる。検事は次々に証人を繰り出し、メイスがいかに危険な存在なのかを証明しようとする。弁護士はそれを反対尋問で飄々といなす。裁判は検察側有利で進むが、弁護士には逆転の秘策があった。そして、弁護側の証人の証言が始まる。

 異星人と裁判と言うと、以前取り上げた「イリーガル・エイリアン」がありますが、あちらは長編でこちらは短編です。読後感の良さも似ています。
 検事の敵意に満ちた裁判の進め方は、憎たらしいですがメイスが無罪を勝ち取るのは難しいように思えました。弁護士の飄々とした態度には、やきもきさせられました。それにしても、それまでの裁判の流れを一気にひっくり返すその手際! そして弁護側の証人の「証言」の、なんと力強いこと!
 正直、最後の一節は蛇足に思えましたが、実に面白い作品でした。

 作者のエリック・フランク・ラッセルはイギリス人ですが、アメリカの雑誌<アスタウンディング>誌でデヴュー。英国惑星間協会の創立メンバーで、アーサー・C・クラークは後輩にあたるらしいです。

 SFは、短編をよく読むのですが、今まで読んだSF短編では、この作品がベストです。

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