2015年9月24日木曜日

『ずっとお城で暮らしてる』感想

『ずっとお城で暮らしてる』
シャーリー・ジャクスン著/市田泉訳
創元推理文庫 初版2007年8月24日

 あらすじ・・・メアリ・キャサリン(メリキャット)・ブラックウッドは、姉のコンスタンス(コニー)と伯父のジュリアンの3人で屋敷に住んでいる。この家ではかつて、メリキャットの両親、弟、伯母が毒殺される事件が起きていた。姉のコニーが犯人と疑われたが、裁判の結果無罪となった。
 村の住人たちはコニーが犯人と決めつけ、ブラックウッド家に悪意を持っていた。子どもたちは歌う。
”メリキャット お茶でもいかがと コニー姉さん”
”とんでもない 毒入りでしょうと メリキャット”
”メリキャット おやすみなさいと コニー姉さん”
”深さ十フィートの お墓の中で!”
 それでもメリキャットは姉をかばい、伯父の世話をして狂気に囚われながらも、平和に過ごしていた。従兄のチャールズが来訪するまでは……。

 なんか、読んでいて混乱してしまう話です。登場人物の狂気が、読者である私に感染するみたいに。メリキャットに向けられる村人の悪意には、吐き気すら覚えます。まともな人間がほとんど登場しないんですよね。
 それでも、メリキャットに感情移入して読んでいたら、伯父の一言ですべてが崩れ去ってしまいます。ネタバレを防ぐため詳しくは書きませんが、「メリキャットって、何者なんだ?!」ってかんじです。まあ、伯父もまともな精神状態ではないので、頭から信じることはできませんが。
 とにかく、悪意と狂気に酔いそうな作品です。

 作者のシャーリー・ジャクスンは、アメリカの女性作家で短編「くじ」(これも、たいがいきっついはなしです。)や長編「山荘綺談」(「たたり」「ホーンティング」のタイトルで映画化されています。)で有名です。人間の悪意や狂気を描かせたら、右に出る人はいないんじゃないですかね? 「魔女」の異名は伊達じゃありません。

 以前、創元推理文庫で「はじめて読むならこの一冊」というキャンペーンをやっていて、ジャクスンはこの「ずっとお城で暮らしてる」が選ばれていたんですが、はじめて読むジャクスンがこれって……。まあ「くじ」よりはいいか……。
 

2015年9月14日月曜日

『真夜中の太陽』感想

『真夜中の太陽』
ロッド・サーリング著/福島正実訳
講談社文庫「不思議な国のラプソディ 海外SF傑作選」所収 初版1976年4月15日

 あらすじ・・・地球が突然公転軌道を外れ、太陽に近づいて行き、気温がみるみる上昇していた。今や真夜中でも真昼のように暑く、明るかった。人々が少しでも涼しい場所を求め、北の方に移動している中、ノーマ・スミスはアパートに残り、太陽の絵を描いていた。ノーマの他にアパートに残っているのは、ブロンソン婦人のみ。天気予報を読むアナウンサーは、ヤケになって喚き立てる。見回りを続ける警官も、ノーマに銃を渡して街を出ていった。そしてついに、空いっぱいに広がった太陽が、地上を照りつけた。ガラスはひび割れ、カンヴァスの絵の具が融けだし、燃え上がった。ノーマの唇が燃え、両目から液体が流れ出し……。

 夏に読んじゃダメな話です。オチは○○○なのですが、さらにもう一捻り皮肉なオチがあるのが、サーリングらしいと思いました。
 この作品は、TVの「トワイライト・ゾーン(ミステリー・ゾーン)」の中の一編です。ドラマのノベライズなのか、小説をドラマ化したのか分かりませんが、ドラマでも名作と評判です。「トワイライト・ゾーン」のDVDが本屋で売ってますが、この「真夜中の太陽」が収録された巻が出たら買おうと思ってたのに、買いそびれてしまったんですよね……。小説がすごく良かったから、ドラマも見てみたかったんですけど。

 作者のロッド・サーリングは作家としてより、テレビライターとしてのほうが有名で、特に「トワイライト・ゾーン」が日本でも有名です。

 「不思議な国のラプソディ 海外SF傑作選」は福島正実編のSFアンソロジーです。「現実の世界では決してあり得ない異常な出来事を、あっと意表をつく発想で捉えたSF独特の<奇妙な味>を伝える12編」が収録されています。他には、ドナルド・A・ウォルハイム、エドモンド・ハミルトン、マレイ・レンスター(ラインスター)、フレデリック・ブラウン、ウィルスン・タッカー、リチャード・マシスン、ゼナ・ヘンダースンなどの作品が収録されています。
 福島正実さんが編んだ「海外SF傑作選」は他にもあり、「破滅の日」「人間を超えるもの」の二冊を持っています。
「真夜中の太陽」は、文春文庫の「トライライト・ゾーン2」にも、収録されています。

2015年9月7日月曜日

ツイン21古本フェア リポート

『ツイン21古本フェア』リポート

 2015年9月6日、ツイン21古本フェアにいってきました。
 天気は生憎と雨。でも、屋内イベントなので問題なし。
 いつもより、本棚が少なく感じたのは、気のせいでしょうか? 古本の他には、ジャニーズのグッズが売られていました。雨なのに熱心な古本好きが、沢山来てました(お前が言うな)。 
 ツイン21古本フェアは、今週の土曜日12日まで開催されています。お時間のある人は、行ってみられたらどうでしょうか。最寄り駅は、JR大阪環状線京橋駅。西出口(途中、東西線のホームを通ります)から出ると、目の前の通路に案内板があるので(大阪ビジネスパーク)、そこを直進。大阪城京橋プロムナードに繋がっているので、そこで左折。あとは道なりに行けばツイン21に着きます。ビルに入って直進すれば、会場に着きます。


 今回の戦利品はこちら。4冊とかなり少なめ。
 今回の一番はこれ。
 ピーター・ストラウブ著「扉のない家」(扶桑社)は中・短篇集です。 ストラウブは「ココ」を読んだことがありますが、あれは良かった。スーパーナチュラルな要素の無いサイコホラーはあまり好きではないのですが、「ココ」は面白かったですね。この本に収録されている「ブルー・ローズ」「レダマの木」は、「ココ」と関連のある話になっています。
 唐沢俊一著「古本マニア雑学ノート」「古本マニア2冊目雑学ノート」(ダイヤモンド社)は、タイトルで。中には珍しい古本が沢山紹介されていて、眠田直さんのイラストも面白いです。唐沢さんの「古本マニアってのはパソコンなんか買う金があったら、その分で古本買っちゃいますからね」という言葉には私も大納得でした。
 スウェン・ヘディン著の「ペルシアから中央アジアへ」(白水社)は、「ヘディン探検紀行全集」の第一巻。シルクロード好きなら全巻揃えたいところですが、別巻合わせて17冊もあるんですよね。

 今回は収穫が少なかったですが、やっぱり古本市はいいですね。何度行っても楽しいです。興味のある方はぜひ、行ってみてください。

『水の底』感想

『水の底』
ロバート・R・マキャモン著/田中一江訳
ハヤカワ文庫NV「ハードシェル」所収 初版1990年3月31日

 あらすじ・・・夏の終わり、グレン・コールダーはプールにやって来ていた。この夏、息子のニールがここで溺れ死んだのだ。ただの事故ではない。このプールには人を襲い、生命を吸い取る怪物が潜んでいるのだ。怪物は宇宙から飛来し、近くの湖に落ちた。プールは湖から水を汲み上げ、排水している。配管を通って、怪物はプールに潜り込んだのだ。ニールの首すじについていたあざに疑問を感じたグレンは、新聞記事などを調べ、怪物という結論に至った。「パパ! 溺れたんじゃないんだ! あいつに殺されたんだ!」という息子の声を聞きながら、グレンは水中銃を手にプールに忍び込んだ。息子の復讐をするために……。

 泳げない人が読んだら、更に泳ぐのが嫌いになりそうな話です。私も子供の頃、海の深いところには何かが潜んでいそうで、怖くて砂浜近くでばかり泳いでいました。そんな子供の頃の恐怖心を呼び覚ますような展開で、グレンと怪物の対決は(水中の戦いということもあってか)息詰まる物になっています。特にグレンがプールに落とした水中銃を拾った時、排水口の近くで光る物を見つけた時の戦慄は……。

 ロバート・R・マキャモンは、キング、クーンツと肩を並べるホラー作家の一人です。代表作には、「奴らは渇いている」「スティンガー」「スワンソング」などがあります。「マイン」あたりから、スーパーナチュラルなホラーを書かなくなって残念です。

「ハードシェル」は「ナイトヴィジョン」というアンソロジーのシリーズの一冊です。マキャモンの他には、ディーン・R・クーンツ、エドワード・ブライアントが書いています。この「ナイトヴィジョン」は、一人3万語の割り当てを自由に使って書いていいという、ちょっと変わったアンソロジーになっています。シリーズからは他に、キング、ダン・シモンズ、ジョージ・R・R・マーティンの「スニーカー」が翻訳されています。他にもデイヴィッド・マレル、ラムジー・キャンベル、クライブ・バーカー、F・ポール・ウィルソン、リチャード・レイモンなどが参加しているので、他の巻も翻訳して欲しいものです。