『ぶわん・ばっ!』
シオドア・スタージョン著/大森望訳
河出書房新社「不思議のひと触れ」所収 初版2003年12月30日
あらすじ・・・「一流のバンドでタイコを叩くにはどうすればいいか?」という私の質問に、レッドは昔話で答えてくれた。アマチュア時代、それなりの腕を持っていたレッドは天狗になっていた。演奏の合間に客席で休憩することなどしょっちゅうだった。
その日も客席で休憩していたレッドは、顔見知りで貸し船業の父親の手伝いをしているマニュエルという青年が、自分の代わりにドラムを叩いているのに気づいた。彼の演奏は最高で、バンドのメンバーも今まで聞いたことがない程、素晴らしい演奏をしていた。
ある日、川の中州で行われる、野外ダンスパーティーで演奏することになったレッドは、その場に音楽業界の大物が、新しいドラマーを探しに来ることを知った。しかしバンドのメンバーは、身勝手なレッドよりマニュエルに演奏させようとしていた。そこでレッドは、マニュエルの父親を騙して急用で出かけさせ、彼が船の操縦で手が離せない様にした。計画通りマニュエルはドラムを叩けなかったが、レッドの演奏も散々で大物をがっかりさせた。
パーティーが終わり、皆マニュエルの操縦する船に乗った。すると、船が異様な音を立て始めた。
ぶわん・ばっ・しっしゅ・しーば
ぼわん・ばっ・しっしゅ・しーぼ
マニュエルが船をドラムにして、演奏を始めたのだ。
この話は一見すると、普通の音楽小説のように見えます。しかし、ラスト一行でこの物語が急に、SFに変わるのです。本当に、最後の一行、最後の一文節で。この本には、色々なタイプの短編が収録されていて、どれもいい作品なのですが、この最後の一行の力によって、この話が一番印象に残りました。
シオドア・スタージョンは、アメリカの有名なSF作家で、長編では「人間以上」が日本では有名です。また「あらゆるものの九割はクズである」という、いわゆる「スタージョンの法則」でも知られています。短編作家としても有名で、日本でも多くの短編集が出版されています。
「不思議のひと触れ」は、河出書房新社の「奇想コレクション」の一冊です。他にも様々な作家の「すこし不思議な物語」の名作を作家別に編集したシリーズだそうです。ダン・シモンズの「夜更けのエントロピー」とか、読んでみたいですね。
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