『刀鍛冶の双眸』
ゴードン・リンツナー著/白石朗訳
新潮文庫「幽霊世界」所収 初版1994年7月1日
あらすじ・・・刀鍛冶の麻生は、商売敵の老刀鍛冶竹雄を闇討ちしようと、その家に忍び込んでいた。殺そうというのではない。その目を潰し、刀鍛冶としての命を絶とうというのだ。竹雄は麻生が足元にも及ばぬほどの腕前の持ち主で、仕事の殆どは武雄の元に集まるため、麻生の仕事は数えるほどしかなかった。武雄さえいなければ……という思いが、麻生を凶行に走らせた。首尾よく竹雄の目を潰した麻生だったが、数日後竹雄はこの傷が元で死んでしまう。それから麻生の周りで奇怪な現象が起きるようになる。様々なものに、目が、竹雄の鉄のような色の目が、庭石の表面に、味噌汁の中に、煙管の先の火皿から、花魁の股間から、麻生を見つめるのだ……。
読んでる間も、読み終わった今も、感想は「嘘やろ!?」でした。何が「嘘」かって、これ書いたのが「日本人じゃない」ってことがです。 日本人がペンネームでアメリカの本に寄稿したのかと思うほど、内容が「日本」なんです。”時刻ははや、子の刻をなかば……””水無月の雨の音が……””ここは祇園や先斗町といった格式のある……”などなど、アメリカ人の書いた文章とは思えないんですよね。様式は、ほぼ完璧に日本の怪談話になってます。これって、作者がすごい日本マニアなのか、訳者の翻訳センスがすごいのか、どっちなんでしょう? こういう時、英語が読めたら原書で読んでみたいんですけどねぇ……。
作者のゴードン・リンツナーは解説によると、ファンジン<スペース&タイム>誌の編集者だということで……って、職業作家でもないのかこの人! ホント、どういう人なんでしょう? 未訳に「The Oni」とあるのも日本を舞台にしたものでしょうか? 読みたいんですが、誰か翻訳してくれませんかね?
「幽霊世界」はポール・F・オルソン、デイヴィッド・B・シルヴァ編の「幽霊もの」ホラーアンソロジーです。リンツナー以外には、キャスリン・プタセク、チャールズ・デ=リント、チャールズ・L・グラント、ラムジー・キャンベル、ロバート・R・マキャモンなどです。一番はやはり、マキャモンの表題作でしょう。しかし、ホラーファンが一番見逃せない(読み逃せない?)のは、ディーン・R・クーンツによる「あとがき」でしょう。「あとがき」とありますが、内容はむしろクーンツによるホラー論になっています。ホラーファンなら快哉を叫ぶ事間違い無しの、名文になっています。
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